デジタル広告に携るからといって、技術者になる必要はない。


今日は具体的な事例ではなく、私が聞いてきたお話を書かせていただきます。仕事関係でお会いした方なので名前は出せませんが、ご了承ください。

その方は、日本のインターネット黎明期からネットマーケティングに関わってこられた、あるITコンサルティング企業の女性マネージャーです。最初に、こう仰いました。
「私はネット業界今年で9年目ですが、JavaScriptも分からなければ、HTMLを書くことすら出来ない。」
これは、よくある「管理職の傲慢」ではありません。「できないから何だ。それはお前らがやれ」という発想のネット企業管理職の方にお会いすることも少なくありませんが、次の言葉でそうではないことが分かりました。
「ただ、出来ないことと出来ることの線引きは分かる。その肝さえ押さえておけば、テクノロジーを活用したネットマーケティングはできる」

なるほど、と思いました。英語学習に例えると分かると思います。英語の基本的な文法をいくつか学んだ後は、「英語のクセ」を見極めることが出来さえすれば「通じる英語」を作ることができるようになりますよね。それと同じことです。
ITコンサルの会社では、技術者がコンサルタントをしていることが多いと思います。このメリットが大きいのも確かです。「発想」から「実現」までを一貫して、クライアントの課題から技術までを深く理解した一人の人物が行えるのは素晴らしいことです。仕事が速く進みますし、なにより、口のうまい営業に乗せられた時に起こりがちな「アイディアは良いのに実現ができない」というジレンマに陥りません。
しかし、必ずしも技術者がコンサルテーションまで出来るとは限りませんよね。また逆に、コンサルテーションはしなくてはいけないけれども、技術的には未熟である、という場合もあります。(こちらの方が多いかも知れません)
後者の場合、技術を勉強する必要がありますが、HTMLのタグ1つから学び始めるのでは、いつまでたっても最新技術まで追いつきません。そういう場合、インターネット技術のクセを覚えれば良いのです。以下に、私が思いついたクセをいくつか並べてみます。

  • 自サイトへの訪問ユーザーを何の仕掛けもなしに特定することは不可能。
  • アクセス解析によってホストの確認程度はできても、メールアドレスや姓名は分からない。
  • インターネットとは、PCの複合体なので、特定のアプリケーションをウェブ上で走らせることは、可能。
  • 上記と同じ理由で、自分のものではないPCにデータを保存、読み出しをさせることも可能。
  • (クッキーなどを使って)特定ユーザーの訪問履歴を蓄積することは可能だが、ユーザー側PCに残した履歴をこちらで読むことになるので、必ずしもそれが正しいとは限らない。
  • ユーザー側のPC環境は様々。全ての可能性に対応出来ればよいが、そうはいかないので、最新のWindowsIEに対応させるのが先決。

たぶんもっとありますが、「クセ」として上記のようなことを知った上で、最新技術の情報(知識ではなく、情報で十分です)を仕入れていれば、「いまのテクノロジーで可能なこと」は見えてくると思います。
それさえ見誤らなければ、クライアントに実現不可能なことを提案することもないでしょうし、社内の技術者に無理を言わずに済みます。

インターネットやテクノロジーに苦手意識を持つプランナーやコンサルタントの方は多いと思いますが、そういった方々にとって非常に重要な話だと思いましたので、書かせていただきました。
勉強に最適な本など、見つけたらご紹介させていただきます。

出版大手3社の電子タグ採用検討に見るフリーペーパーの未来


集英社小学館講談社の出版大手3社と大日本印刷ブックオフ株を買ったニュースはまだ記憶に新しいと思います。あのとき、「何をする気だ?」という憶測が飛び交いました。そして、おととい、回答のうちひとつが発表されました。
以下、asahi.comの記事を要約します。

万引き対策に電子タグ構想 asahi.com
 講談社集英社小学館の出版大手3社と大日本印刷グループ(大日本印刷図書館流通センター丸善)によるブックオフ株取得で、出版社側とブックオフの間で「万引き本の買い取り防止対策」が焦点の一つに浮上している。・・・
 これまで、発売されたばかりの話題の本がその日のうちにブックオフの棚に並ぶことがあり、「万引きされた商品ではないか」と出版社・書店側は疑いの目を向けてきた。・・・
 この問題で、大きな役割を果たしそうなのが大日本印刷が開発中の電子タグだ。書籍1冊ずつにつければ、書店のレジを通ったか否かがわかるようになる。

つまり、出版物にレジを通過したかどうか記憶できる電子タグを添付し、レジを通過していない商品がブックオフに持ち込まれた場合は買取をしない、というもの。個人的には、非常に有効なよい対策だと感じました。

ここで、「電子タグ」について解説しておきましょう。ICタグとも呼ばれます。身近なところでは、PASMOsuicaといったIC乗車券やtaspoがそれにあたります。小さな電子チップに情報を埋め込み、読み取り機から電波でそれを読み込むものです。今回の事例では、書店レジで電子タグに情報を埋め込み、ブックオフのレジでそれを読み取り、という流れになりますね。
この技術のすばらしい点は、必ずしも接触させる必要がないこと、非常に小さいこと、そして安価なことです。海外では、商品の外箱の紙繊維に紛れ込ませてカゴごと自動でレジ、清算を行なう仕組みもあります。つまり、そのくらい小さく、商品価格に反映されるほど高くもない、ということです。

私は今回のニュースを読んで、フリーペーパーに適用できないかなぁ、と考えました。
2〜3年前まではフリーペーパーは広告媒体として花形で、4マスが衰えていく中、代理店の救世主と言われかねない勢いでした。が、近頃はやはり衰えていっているようです。その衰退の構造は4マスとまったく同じで、読者の顔が見えず、絨毯爆撃的な広告投下にしかならないことが広告主には不満なのです。
部数の問題もあります。新聞・雑誌であればABC協会、テレビ・ラジオはビデオリサーチ社が(かなり怪しいとは言われますが)その部数・視聴取率を確認しています。
ですが、フリーペーパーは発行部数はわかっても、読んでもらった部数をつかむことが難しいのです。ラックから消えた数を数えることだけでは、不確定ですよね。

そこで、この電子タグを雑誌に埋め込めないかと考えました。
たとえば、駅で配布しているものなら、改札を通過する際に、店舗内での配布であれば店舗の出入り口で、フリーペーパーの出入りを検知、カウントするわけです。そうすれば、「持ち出された数」を確実にカウントできます。また、クーポン誌であれば切り取る必要がなくなります。フリーペーパー自体を店舗のレジで読み取り、クーポンを使うことができるでしょう。

ここから先は空想的ですが、ライフログと結びつけることで、さらに詳細にデータを取得できます。いまの日本では、定期券やケータイなど、個人情報を持っていて、かつ、電子タグの埋め込みが可能(もしくはすでにされている)機器をほぼ一人ひとつずつ所持しています。これらと組み合わせることで、どこのだれがどのフリーペーパーを持ち出したか、が明確になります。
もちろん、倫理面の問題が大きいですので、まだまだ空想の域を出ませんが、個人情報を電子タグで提供することに明確な利益を感じることができれば、可能なのではないでしょうか。
たとえば、マクドナルドの「トクするクーポンアプリ」はアプリをダウンロードする際に個人情報を入力、以後レジで使うたびに利用者の属性と商品、時間が結び付けられます。マクドナルド社はそれをマーケティングデータとして活用するかわりに、通常のクーポン利用者よりも10円安く商品を提供しています。

個人情報を提供することのメリットは、精神衛生や安全性とのトレードオフです。このバランスをとるのはテクノロジーの力です。より強固なセキュリティ、属人的でないデータ管理が必要になります。
広告主が最小投資で最大効果を求め続ける限り、個人情報の取得は重要になってきます。上手な共生方法がみつかるといいのですが…。

ライフログについては、後々解説いたします)

アディダスの拡張現実販促


"Augmented Reality"、拡張現実という言葉をご存知でしょうか。
上の画像、これはNHKの「電脳コイル」というアニメです。この街には、特殊なメガネをかけると「そこにないはずのものが見える」という仕掛けが施されています。これが、拡張現実です。
似た言葉で、"Virtual Reality"というものがありますが、こちらは「仮想現実」と訳されます。たとえば、テレビゲームがそうです。ちょっと、違いがわかりづらいですね。以下に、Wikiを引用します。

拡張現実(かくちょうげんじつ)とは現実環境にコンピュータを用いて情報を付加提示する技術、および情報を付加提示された環境そのものを示す。英語表記はAugmented Reality 、省略形はAR

バーチャルリアリティ (Virtual Reality) とは、実際の形はしていないか、形は異なるかも知れないが、機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザの感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系。

まだちょっとわかりづらい。
要するに、「現実世界に情報を付加する」のがAR「仮想的に世界を作り上げてしまう」のがVRという理解でとりあえずは良いと思います。

今日は、この二つのうち、拡張現実の話題です。
ちょっと前の話になりますが、昨年のTechCrunchで発表されて話題になったiPhoneアプリの「セカイカメラ」を覚えてらっしゃいますでしょうか。

iPhoneカメラであたりを見渡すと、風景に情報が付加された拡張現実を体験できるソフトウェアです。収益モデルは広告で、拡張現実内の好きな場所に広告を表示できるサービスを始めるということ。面白いですね。新しい広告のスタイルだと思います。

やっと本題に入りますが、私が知る限りでは始めて、拡張現実を販促に用いた事例が出てきました。

「サッカーショップ加茂メガエスタディオ茶屋町店」で行なわれている店頭販促で、ケータイにダウンロードしたエンブレムを店頭に設置されたカメラにかざすとTV上で自分のケータイから応援メッセージが溢れ出てくるというものです。
大阪なので、遠くて実際に見に行けないのが残念ですが、「すごい!」という感動を与えてくれそうですよね。直接的に販促に結びつくかはちょっと微妙ですが、客を店舗に固定する力はありそうです。

拡張現実はまだまだ生まれたての技術です。今回の事例はデバイスと場所に縛られすぎているので決して最高にイノベーティブなものというわけではありませんが、こういった事例の積み重ねがいつかブレイクスルーを作り、販促や広告の手法として定着していきます。QRコードがそうであったように。
これからも拡張現実系の話題があったら積極的に拾っていこうと思います。

BlackBerryと日本のケータイと広告


日本ではドコモから発売されているスマートフォン、"BlackBerry"ご存知ですか?
最近購入したので、いろいろと考えていることを書いてみます。

このデバイスのバタ臭い顔から想像できると思いますが、海外製品です。
カナダのResearch In Motion社で開発されました。発売当初は、キーボード付のポケベル程度のものでしたが、PDA化していわゆる「小さなPC」と言えるデバイスになり、人気が爆発、今では欧米ビジネスパーソンの御用達グッズとなっています。
私は使い始めて2週間程度ですが、このデバイスが日本のモバイルマーケティング市場に登場するにはまだまだ時間がかかると感じました。
理由は「日本のケータイサイトが閲覧できない」こと。

ケータイサイトでは、アクセスに使われた機器を自動で認識し、解像度を最適化したり、使えない機能をオフにしたり(たとえばFlashが表示できない機種でアクセスされたら、それを切る)しています。
また、ユーザーにとってURLは少ないほうがメリットが大きいですから、PCとモバイルが同じURLでアクセス出来るように、PCとケータイで表示させるサイトを振り分けるのが普通です。携帯でしか使えない機能を使っていたり、携帯での表示に合わせてグラフィックを落としたりしているので、通常はPCからケータイサイトを見る理由がありません。
しかし、BlackBerryでアクセスするとケータイであるにも関わらずPCサイトに飛ばされてしまいます。それは何故か。
モバイルサイト制作の現場で、BlackBerryからのアクセスを想定していないので、ケータイだと認識しないのです。日本でキャンペーンをするのであれば、ケータイからのアクセスはホストが限られています。docomoKDDISoftbankWillcomE-mobileだけですね。これらからのアクセスは、ケータイサイトへ、それ以外をPCサイトへ飛ばすようにシステム構築をしているのです。
当然ですよね。普及数がまだまだ小さいBlackBerryのためにシステム開発工数を増やすのは合理的ではありません。ユーザーである私が開発担当者でも、BlackBerryからのアクセスは除外して考えると思います。

では、BlackBerryからたとえばmixiにアクセスするとどうなるか。私の実機でのスクリーンショットをご覧ください。

このように、PCサイトが表示されます。当然、広告もPC用、その先にあるキャンペーンサイトもPC用です。リッチなコンテンツを使ったキャンペーンサイトなど閲覧できませんし、申し込みフォームの動作にも問題が出るかも知れません。
つまり、実質的に、BlackBerryはモバイルを使ったキャンペーンに参加できない訳です。

モバイル広告のスターであるSNSがこれでは困ってしまいます。しかし、海外ではどうでしょう。
たとえばFacebook。大人気のSNSサイトですね。BlackBerryでは次のように表示されます。

非常に見やすいですね。これは何かと言えば、BlackBerry用のfacebookアプリです。アプリ化することで、表示問題をクリアし、使いやすいUIを実現しています。同じように、twitterMySpaceもアプリが提供されています。すばらしいソリューションですね。
これは、ただ現地で人気があるから、だけではありません。もともと欧米のケータイではウェブ閲覧が一般的ではないために、このように進化したのです。つまり、もともとケータイサイトが発達する土壌がなかったわけです。
iPhoneが熱烈に歓迎されたのも、BlackBerryが非常に普及しているのも、この点がポイントです。ウェブ閲覧ができるケータイ自体が貴重であり、価値があったのです。

日本でBlackBerryが広まらない理由は、それを裏返せば分かります。日本では、ウェブ閲覧ができるケータイが当たり前で、最初からPCとケータイのウェブサイトが住み分けて進化したからに他なりません。要するに、わざわざBlackBerryでウェブを閲覧するのは、かえって不便な訳です。(当然、私はそれ以上のメリットを感じているから購入したわけですが)

日本のケータイはよく「ガラパゴス」と例えられます。特殊な進化を遂げてしまって、外界に適応できないという意味です。しかしそうではなく、日本のケータイは生活者に寄り添って、非常に使いやすく、洗練された進化を遂げていると私は思います。
そのような進化をしたからこそ、ケータイでのプロモーション・マーケティングは日本市場で力を持ち、今や広告業界で数少ない成長媒体となっているわけです。
ちょっとした動作(短いメールを送る、ウェブで乗り換え案内を調べる、電話帳に登録するなど)は、BlackBerryなんかよりもずっと使いやすく出来ていると感じます。
モバイルマーケティング業界の第一人者、日本コカコーラの江端氏はこう仰っていました。
「日本のケータイはガラパゴスではない。トゥモローランドだ」

私はこのエントリの冒頭で、

このデバイスが日本のモバイルマーケティング市場に登場するにはまだまだ時間がかかる

と書きましたが、それはつまり、海外製のケータイが日本のトゥモローランドに追いつくのには時間がかかるだろうな、ということです。日本のモバイルマーケティング業界は、かなり特殊な状況下にあります。先行事例もまだまだ多くありません。
しかし、生活者に寄り添って進化した日本のケータイは、マーケティング上、非常に有利な消費者接点ではないでしょうか。

「ad:nology 広告とテクノロジー」本日より開業します。

広告業界で働く私が、広告とテクノロジーの関係について書かせていただきます。
近ごろ花盛りのデジタルサイネージ事例から、最新のデバイスウェブサービスにおける広告展開の可能性など、書いていきます。

手短ですが、よろしくお願いいたします。